My Architecture Report

建築探訪エッセイ。だいたい月一回更新。

2010年代の最前線 / 須賀川市民交流センター tette

8月を最後に、忙しさにかまけてすっかり更新をさぼったまま年末になってしまった。先日、もはや忘れかけていたパスワードを入力してこのサイトにログインし、アクセス解析を開いてみたら、てっきり閲覧数の欄には0か1といった数字が表示されると思っていたのに、ずっと多くの数字がそこにあった。一体どこの誰がどのように読んでくれているのか想像もつかないが、冬休みに入った今、この秋以降に訪れた二つの建築について簡単に記事をアップしたい。まずは「須賀川市民交流センター tette」。

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(写真は施設ホームページより)

 

電子決済アプリで今年の支払い履歴を辿っていたら、11月中旬に見慣れないお店への支払いがあった。しばらく考え込んで、ようやく、「須賀川市民交流センター tette」で飲んだコーヒーのことだと思い出した。紅葉の美しい時期、土日休みに東北地方に一泊二日の小旅行にでかけたのだった。まず東京から新幹線で仙台へ向かい、JR仙山線で山形に移動し宿泊。日曜は午前に山形を回ったのち、福島県須賀川市に寄って東京へ戻った。

旅も終盤の日曜の午後、須賀川駅に降り立ち、なだらかにカーブしつつ上り坂になっている静かで広い目抜き通りを15分ほど歩くと、右手に「須賀川市民交流センター tette」が現れた。2019年にオープンしたばかりの、図書館を中心とした市民交流センターだ。建設時から注目していたことに加え、偶然にも建築とは関係のないラジオパーソナリティーが称賛しているのを聞いたことや、設計チームの一角を担った畝森泰行さんのレクチャーを会社で聞いていたこと…そうした出来事が重なり、この建築の訪問は自分にとってささやかな悲願になっていたのだった。これは行かねばなるまいと。

自然と吸い込まれるように中に入ると、自分のための壮大なサクラなのかと疑うくらい、図書館、自習室、ホール、カフェ、子供の遊び場などで活動が発生している。須賀川にゆかりのあるかのラジオパーソナリティーが「須賀川にこんなに人がいたのかと思った」と驚いていたのも頷ける。奥に長い敷地に対して各フロアがずれながら重なることで無数にテラスや吹き抜けが生まれ、さらに随所に設けられた階段やスロープで上下階が視覚的にも動線的にもつながり、建物の隅々にまで開放感が行き届いている。そんな空間構成に、有り余った元気で遊び場を駆ける幼児、だらだらと勉強する中高生の友人同士から、暇を持て余しているように見えるお年寄りまで、面白いように人と活動がマッチしている。

tetteのこうしたすがたは、この前日に見た「せんだいメディアテーク」と対になって、より一層印象深いものになったかもしれない。せんだいメディアテークは初めて訪れたのだが、2001年に公共施設の潮流を変えるような革新的な建築として開館したこの建物も、今見ると、通りに面してピシッと揃ったガラス面などには、まだまだ市民活動に対して建築デザインが構えている感じを受けた。内部も以外に各フロアと用途が分断されていて、窓から遠い奥は暗い。公共建築としてはせんだいメディアテークの子孫ともいえるtetteのオープンさ、無防備さを前にすると、両建築で隔世の感があるという思いを抱く。2010年代の最前線の公共建築にいるのかも、という気がした。

上層階まで上ると、山に囲まれ、なだらかに土地の隆起する須賀川の街の様子が四方八方見渡せる、その眺望もすばらしい。そしてまた地上階まで下りてきて、電車までの時間を待つのと、この施設と街に少しでもお金を落としていこうという動機から、カフェスペースで冒頭のコーヒーを注文したのだった。